EGDON HEATH

The City

ウェットな音とカラフルなキーボード　オランダ産ポンプ・ロック

　オランダ出身。SI MUSICからリリースされたデビュー作です。ウェットな音とカラフルなキーボードが主体の典型的なポンプサウンド。フツーのメロディック・ロックにGENESIS系ギターがほんのちょっとだけシンフォな雰囲気を醸し出してる。しかも、かなり音が荒れていてまるでMARILLIONのデモ音源・・・こう書けばその雰囲気がわかってもらえますよね。
　あるいはごく初期のPENDRAGONにも近いかな。彼らの初期作品Rest Of Pendragonのように、歌を中心したシンプルなメロディック・ハード。どこがシンフォかというと、厚みのあるシンセがそれっぽいという。
　１曲目PyromaniaとラストのIn The Cityは小粒ながらも「ほほー」と思わせる展開があります。Steve Rthery風のギターがふんだんに出てきまして、ま、これはこれでいいかなと。
　しかし他の曲はつまんないっす。先の２曲とのギャップがあり過ぎでっす。正直、演奏が未熟じゃないかな。ギターも歌も曲の展開も水準に達してないですね。個性も弱い。当時のMARILLIONやPENDRAGONらに大きく水をあけられてる言わざるを得ませんね。

SI SIMPLy EIGHT ('87/'91)

Nebula

独自の世界観、圧倒的な完成度　ポンプがたどり着いた理想郷

　かつて一世を風靡したポンプ勢。しかし、８０年代後半にはシーンの衰退とともに苦戦を強いられます。メジャーで活動したMARILLION、根強いファンの居るPENDRAGONだけが順調に活動を続けることができましたが、彼らとて元々自分達が立っていたところからは次第に離れていきます。MARILLIONはヴォーカルが交替、そしてブリティッシュ･ロックへの回帰。PENDRAGONはメロディック路線を強め、独自のシンフォ・サウンドを確立しました。
　さてEGDON HEATHです。本作はまずは存在感のあるヴォーカル。本作のテーマである絶望や退廃を語るにはぴったりの声なんですよ。そしてこのヴォーカルを中心に、メロディアス志向、重厚な演奏。。これらの要素がうまく合致してオリジナリティ溢れるアルバムができました。
　ツインギター、ツインベース、ツインヴォーカルの構成。バトルが繰り広げられるんではなく、互いに協調しながら厚みのある世界を作り上げます。音を重ねて分厚くしているようです。そのせいか、シンプルなフレーズなのに奥行きを感じさせるんですよね、深遠な雰囲気が出来上がっています。
　ギターは伸びやかなロングトーンを好む。情感に訴えるような演奏です。ベースは動きのあるタイプ。ドラムはタテノリ中心でシンプルだけど、厚みのある音に処理されているので存在感がああります。

１曲目 Hail To Your Heart
　いきなり朗々としたヴォーカルが耳に飛び込んできます。続いて厚みのある演奏が立ち上がる。そのまま、ぐいぐいと引き込まれるようです。なんと言ってもこの曲はメロディに尽きますね。一度聴いたら忘れないメロディ。ゆっくりとうねりながら、聴く者を高みへと押し上げていくような抑揚が素晴らしい。荒涼とした世界を歌うヴォーカル／コーラスの存在感も凄い。サブのヴォーカルであるベーシストの声も上手く配置して、メインとの対比を生かした展開が聴けます。特に４分２０秒あたりは鬼気迫るコーラスワーク。このへんのアイデアがいいなあ。完全に世界が出来上がっていますね。何度聴いても素晴らしい。名曲。重厚且つ伸びやかなギターは残響音を残しながらドラマチックに響き渡る。

５曲目 Buried Inside
　くぐもった印象のメロディに、メロディック・ハードのようなキャッチーなメロディを、時折さし込んでいる。さらに二人のヴォーカリストを上手く生かしメリハリの利いた曲が展開。目の覚めるような飛翔感です。

７曲目 As Ripley Would Say...
　複雑なドラミングでアルバム中で最も動的な印象です。サビのコーラスが印象的。後半のシンフォ展開は冗長かな。

８曲目 Dead Meat
　冒頭の煌くようなキーボードソロに続いて、アコースティック・ギターをかき鳴らしながらイコライジングされたヴォーカルが重なる。さらに、ハードなギターとキーボード、そしてSEが交錯するような変った展開に。終盤の疾走感と失速感が折り重なる演奏に不気味な笑い声が響く。変った曲ですね・・印象的。しばらく無音が続いた後にたどたどしいピアノが聞こえてくる。この世の終わりを告げる短いレクイエムのようです。

　メディアムとスローなテンポの曲ばかりで、速い展開の曲はないのにこのカリカリとした緊張感はどうでしょう。独自の世界観が出来上がっています。現在のMARILLION同様、７０年代のプログレからのつながりを排除してオリジナルな音を打ち立てました。残念ながらあまり売れていないようで安値が付けられてるけど（新品を６ドルで購入）、これは傑作。この音で次の作品も是非聴きたいです。

CYMBELINE RECORDS cymply 50762 ('96)