YESのキーボード奏者として彗星のごとく現れたIgor Khoroshev。その彼がYES在籍中の９９年に発表したソロ・アルバム。YESのツアーではRick Wakemanそっくりの奏法でその穴を埋めた彼ですが、彼のオリジナリティがどんなものかよく分からなかったのも事実。そんな彼のソロ・デビュー作は気品高いピアノの小品集です。もちろん、全て彼自身の手による作曲・演奏で、ピアノ以外の楽器、SE、効果などは一切無い。うーん、挑戦的ですね。過去、YESに在籍したどのキーボード奏者とも異なる傾向性を感じさせ、クラシッ ク、ジャズ、ニューエイジのすべてから等しい距離に位置するような音楽性。一聴する とRick Wakemanに通じるクラシカル作品に思えるのですが、それはWakemanの持つ雰囲気に近いため。実際のフレーズにはWakemanの好むクラシカル要素は少なく、むしろジャズとクラシックにも傾かないニュートラルな作風。純化された優美なピアノ作品という感じ。
ニューエイジにも近いのですが、よくある雰囲気だけが先行するものではありません。むしろ朴訥、そして愚直。他のYES歴代キーボーディスト達のソロに比べ派手さに欠けるくらい。
しかし、その奏法には目を見張るものが。特に、そのパーカッシヴな演奏はPatric Morazを連想させ、曲の抑揚をうまくコントロールしています。往年のMorazからラテン色を取り去ったような雰囲気。そういう意味では、透明感だけで勝負するようなニューエイジとはやはり違う。ロックやプログレとは無縁の、しかもYESのメンバーであるということも忘れ、おそらく彼がニュートラルな状態で作った、純然たるピアノのための作品ということでしょう。真摯な佳作。一度聴いたくらいではピンと来ないかもしれないが、繰り返し聴いてその良さを感じて欲しい。
そう言えば、以前、彼のサイトで聴いたシンセ作品はかなり面白かったんですよね。そっちも是非世に出してほしいな。
本作はほとんど店頭には並んでいない。彼のサイトからの直販のみ。