７０年代カンザスの中心人物によるソロ
ご存知、KANSASデビュー以来Steve Walshとともにバンドの中心人物であった鍵盤奏者によるソロ作品です。ゲスト・ボーカルにはDioやSteve Walsh、Jeff Pollandが参加しています。
音のほうですが、紛れもなくあのKANSASが漂ってます。７０年代のアメリカンバンドらしさが残ってた頃・・カッコイイけど泥臭い・・そんな音です。垢抜けず、ちょっと気恥ずかしくなるくらいのストレートさ。ウェットなKANSASってとこですかね。さらに、プログレ・ハードとかけ離れた印象の曲も加え、バンドでは出来なかったこともやろうとしています。
そんな楽曲のなかでも、まるでファンファーレのような派手な音が全面に展開される１曲目Just One Wayがいいです。元RE LOUXのJeff Pollandのボーカルが秀逸です。
７曲目Ground Zeroは当時のKANSAS以上にKANSASしていてカッコイイ。ポップ路線に走り見失ってしまったKANSAS風シンフォを継承するような展開です。KANSASファンは是非聞いていただきたいなと思います。
８３年のカンザス停止後に立ち上げたもうひとつのカンザス
Steve Walshを欠き、代わりにJohn Elefanteをボーカルに迎えて２枚のアルバムをリリースしたKANSASでしたが、８３年に遂にその歩みを止めてしまいます。このアルバムはバンド停止後にリリースされたものです。Livgren名義としては２枚目のアルバムになります。
音楽性は８０年代にリリースされたKANSASスタジオ盤３枚（Audio VisionからDrastic Measuresまで）に近いセンです。何曲かはシングル候補だったのでしょうか、当時のメインストリームを意識したメロディラインです。しかし、KANSAS本隊と比べると地味に感じますが。
前作Seeds Of Changeのように曲毎にゲストを迎えるのではなく、本作はバンド形式となってます（Kerry Livgren ADがバンド名らしい）。メンバーを固定し、二人の専任ボーカリストを迎えました。ちなみに、ここでベースを担当しているDave HopeはKANSASの元メンバーで、LivgrenとともにKANSASを去りました。
このボーカルは二人とも往年期KANSASを彷彿とさせる声の持ち主。中音域から高音域までをカバーする抜けの良い声です。KANSASにもメインとサブの二人のボーカル（Steve WalshとRobby Steinhardt）がいたけど、それにこだわったのかな。コーラスもなかなか決まっておりまさにもう一つのKANSASです。
KANSASが存続していた頃に作られた前作Seeds Of Changeは、KANSASらしさを匂わせながらも異なる方向性も含まれていました。KANSASでできないものをやるんだという意志が感じられました。それに対し、このアルバムは明らかにKANSASの後を継ぐという意思表明でしょう。その音を立て終えるならば、Drastic Measures期のKANSASからElephanteの持ち込んだAOR色を排し、かつてのKANSASが持っていた土の匂いを取り戻した・・てなところですね。Elephanteがあれほどのメロディ・メイカーでなければ（Drastic Measuresでは大半の曲に彼のクレジットがあった）、Vinyl ConfessionやDrastic MeasuresはこのTime Lineのような作風に仕上がっていたのではないですかね。ひょっとして、こちらでもKANSASと名乗ろうとしたのだろうかと邪推したくなる音です。
KANSAS的なスリリングさと時代に合わせたポップ感覚を持ち込んだ８曲目High On A Hillや９曲目Life Undercoverが秀逸です。アルバム前半はコマーシャル、後半はハードです。
KANSASと比べるとどうしても物足りなさはありますが。時にリズム隊が非力ですね・・力強さが足りないような。しかし、それでもプログレ・ハードとしての楽曲の良さと、KANSASに非常に近い音という点でKANSASファンなら聴いておいて損は無いと思いますよ。
突如登場した打ち込みインスト作品
Time Line以降のハード・ポップ路線を離れ、突如登場したインスト作品です。自身のプロジェクトであったKerry Livgren ADを解消、このアルバム一本に取り組んだようです。なんでも1990年にDove Awardという賞で最優秀インスト賞ってのを貰ったそうです。
打ち込みを多用したデジタルなサウンドにも驚きました。ソロ・パートにはギターや明らかに手弾きと思われるキーボードを使っていますが、それ以外はすべて打ち込みだと思います。それまでの作風からは信じられないのですけどね。
カテゴライズ的には、ソフト・ロックそして一部はフュージョン系です。例えば、７曲目のThe Far Countryは、メインのギター以外はすべてプログラミングされていて、まるで「打ち込みフュージョン」みたいな音。
曲の雰囲気も旋律もKANSAS、AD時代とはかなり違います。センスのいいＢＧＭって感じかなあ？ 自然を扱う番組やドキュメントにＢＧＭで使われそう。何かに似ているなあと思い出したのが、同じくプログラミング主体でアルバムを製作しているKit Wakins。Watkinsに、アメリカン・ロックを混ぜた感じですね。
力作です。が・・・出来は良いと思うけど刺激が少ないというか・・・なぜ打ち込みなんだというか・・・どう付き合うべきか図りかねるというか・・・戸惑ってます。