Max Bacon

Higher You Climb

メロディック、産業ロックのファン必聴　元GTRヴォーカリストのソロ作品

　元GTRのボーカリストMax Baconの初ソロにして高品位なAOR作品。意外と全体にしっとりした造り。ちょっとブラコン風の曲も合ったりして最初はびっくりしたが、彼の巧さの前にはどんな曲を選ぼうとどうでもいいことですね。
　Boys From Diamond CityはASIAタイプの傑作。No One Else To BlameはNEROTREND時代のRobert Berryの曲で、Berryも自身のソロで歌っているが、機会が有れば聞き比べて欲しい。おそらくどちらもNEROTRENDの未発表テープの掘り起こしなんだろう、NEROTRENDも持っているんで聞き比べてみたが演奏はそっくり。Berryも決して下手ではないし、それなりの味がある、しかし、Baconのこの躍動感はすごい。曲を何ランクも上質なものに引き上げている。Jon Andersonとはまた資質は異なるが、彼の声もまた、歌に命を吹き込み空高く飛翔させる能力を持っています。感激。
　John Wettonの曲が２曲入ってます。こちらはWetton Versionとの甲乙はつけがたい。
　残念ながらこのアルバム、著作権の問題がクリアされていなかったらしく、最近、廃盤になってしまいました。見つけたら即GETですな。

NOW&THEN NTHEN23 ('95)

From The Banks Of The River Irwell

卓越した歌唱力を再確認できるソロ集第２作　前作とダブりあり

　著作権のトラブルから廃盤になってしまったソロ１作目Higher You Climb　・・と言っても彼がボーカルを務めた他人の作品ばかりを集めたものでしたが。で、本作は新譜というフレコミでしたが、ふたを開けてみたらこれまた過去のセッション物。８０年代後半から最近までの様々なレコーディング（もちろん自身ではなく他人の）から持ってきてたものです。おい、今回は大丈夫だろうなぁ。
　収録作品の中にはオクラ入りもあります。おそらく録音したもののボーカルトラックを差し替えられたんでしょうねえ・・　素晴らしい彼の歌唱力を再確認できると同時に、セッション・マンの悲哀を思い知らされるアルバムでもあります。

１曲目 Someday
　ASIAとの作品。ASIAでの正規バージョンはJohn Payneのボーカルでリリースされてます（Aqua収録）。Aquaにこんないい曲あったかなあ・・と思うくらいこちらのほうが出来がいいと思うんだけどね。

２曲目 Tears In My Eyes
　Geoffrey Downes（彼はGTRのプロデューサーを務めた）のソロに収録された・・はずだが、今聞くと歌い方が全然違う。憂いのあるウェットな歌い方のDownes盤と異なり、こちらはBacon本来の持ち味である伸びのある高い声。演奏も多少異なっています。こっちのバージョンはリズムも強調されてハードロック志向です。

３曲目 Who Can Stop The Rain
　John PayneのASIAに収録されてます(Archiva)。私はどうもPayneのASIAって好きでなくて、こっちのほうがいい曲に思えてしまいます。

４曲目 The Higher You Climb
　前作収録と同じバージョンのようですね。こちらもASIAのArchivaとしてリリースされてます（ボーカルはJohn Payne）。これだけASIAとのセッションがあるということは、DownesはMax Baconをボーカルとして迎えようとしてたんでしょうか？

５曲目 Boys From The Diamond City
　これも前作と同じものと思われます。しかし何度聴いてもいい曲です。ＡＯＲハード風にプログレを押し込めるという、最盛期のASIAを髣髴とさせる素晴らしい曲ですね。起伏と緩急のある展開がドラマチック。どこまでも高みを目指すような伸びる高音。曲終盤で"Boys from the diamond city"と伸びやかに歌ってインストに突入する部分なんか、何度聞いても涙が出そうになります。
　John Payneが歌うASIA盤も存在していますが（Archiva）、これを聴くとなぜDownesはBaconをASIAに迎えなかったのかが不思議です。遅くないから考え直せ・・

６曲目 Hold Me Close
　爽快＆明快な直球メロディック・ハードです。明るいメロディですが、Baconが歌うとさらに飛翔感が出てきますね。

７曲目 Fire In Your Eyes
　バラードです。Fergie Frederiksen風。心の機微を知り尽くしているかのような歌唱・・出典は存じませんが、これぞMax Baconと言いたいくらい素晴らしいです。

９曲目 Everybody Needs Somebody
　本作をeMusicで買った（つまり音源だけ）ためライナーなどを一切読んでません。そのためこの曲の出典は知りませんが、FOREIGNERとASIAの中間をいくようなつくりです。音が悪いのが残念です。

１０曲目 Earth Moving
　BaconはMike OldfieldのアルバムEarthmovingに参加していますが、アルバムではこの曲は歌っていない（正確にはバッキング・ボーカルでそれらしい声が聞こえてくる）。こちらはシングル盤としてリリースされ、メリハリの効いたディスコ・ビートにメロディック・ハードを載せたようなつくり。爽快です。SURVIVORのEye Of The Tiger風。ちなみに、アルバム・バージョンではソウルフルなお姉さんが歌ってました。今回聞きなおしてみましたが、アルバム・バージョンも心が揺さぶられるくらい素晴らしい歌唱です。

１２曲目 Take No Prisoners
　音が悪いですね。ハードに歌っていて声も荒れてます。これ、出典は何でしょう？　楽曲は初期ASIA風なんだけど・・ギターとかメロディはSteve Howeっぽいんだけど。当ってますか？

１３曲目 Moon Under The Water
　Geoffrey Downes関連。他にASIA盤（ボーカル：Payne）とDownesソロ盤（ボーカル：Steve Overland）が存在する。悲しげで流麗なギターがいい。ウェットなギターとBaconのカラッとした歌声が独特の味わいになっている。デュエット形式になっているけど、相手は誰かな？

１６曲目 Breakout
　知る人ぞ知るNWOBHMのバンドBRONZ時代の曲。彼が在籍したのは短期間ですが、当時もなかなかの歌唱を聴かせてくれています。本トラックは唯一Baconが参加したアルバムTaken By Stormの再発盤にボーナスとして収録されてます。Bronzレビューは上記関連バンドのリンクから。

　悲しい。歌がどれも素晴らしいだけに。こんなうまい人が作品を出せない状況が悲しいです。今回も新録ってなさそうですし。現役の歌手でありながら、Steve HoweのソロPortraits Of Bob Dylan('99)参加後はその足取りがさっぱりわからなくなってることに、ファンとして大変な危機感を感じてますが。地道に活動してくれることを希望してます。
　ソロ３作目が聴きたい、と祈るような気持ちでいるのは私だけではないはずです。

Voiceprint / eMUSIC ('02)