EMPIRE

Emire Mark I

女性ボーカルとオルガンが参加　フラッシュのファンは必聴の佳作

　YESの初代ギタリストPeter Banksのグループ。自己のバンドFLASHが全米ツアー中に空中分解、Jan Akkarmanとのコラボレーションを経て、John Giblinらと結成したバンドがこのEMPIREです。録音を続けながら７０年代の中期に活動していたようですが、結局アルバムがリリースされることはありませんでした。ここ数年のPeter Banks再評価の機運にのって遂に日の目を見ました。
　当初はFLASH MARK IIと名乗っていたらしく、その音はソロで聴かれた前衛ジャスロックではなく、その名のとおり初期FLASHの音楽性に戻っています。すなわち、初期YES型のプログレスタイルに元気の良い７０年代ギターが乗っているというもの。FLASHでは２枚目のIn The Canで既に煮詰まってしまった感がありましたが、EMPIREでは女性ヴォーカルとオルガンの参加により、かつてのFLASHを更に押し広げたような音楽性です。達者なメンバーを獲得したことでBanksはブルーズ、バラード、スパニッシュなどにも手を広げていて、巧みなギタープレイで完成度の高いアルバムとなってます。
　音はオルガン参加のシンフォポップ・・・Time And A Word や The Yes Albumの初期YESを連想させます。これらの作品を多少ポップにして女性ヴォーカルが乗ったような感じを想像すれば良いかな？　また、オルガンの活躍からQUARTERMASSを思い起こさせる部分も有ります。

１曲目 Out Of Our Hands
　弾かれるように元気の良いメロディ。煮詰まってしまったFLASH３枚目での前衛的で粘っこい雰囲気が、まるで霧が晴れるように消え失せていて、なにか吹っ切れたような印象を受けます。青空を突き抜けるかのような曲想が心地よいです。
　そして７０年代の香りを放つBanksのギターは饒舌で、The Yes AlbumでのSteve Howeによく似ているのに驚きます。Howeより上手いんじゃないかと思うくらい流暢で巧みな演奏です。
　オルガンもカッコ良くて、Tony Kayeが参加していたFLASHのデビューアルバムを思い出すくらい、スタイルもちょっと似ています。そのため、初期YESを思い出すのかもしれません。
２曲目 More The Words
　ブルースが少し入った作品。ヴォーカルのSydney Foxxと手数の多い演奏のせいで、ブルース特有の重苦しさは皆無。曲調が時々変るのはやはりプログレ。メロディは分かり易い。中間部のギターとオルガンのソロが良いです。バンドの音楽性との違いのため、YESやFLASHでやろうとしてもできなかったのかも知れません。
３曲目 Someone Who Cares
　さらにブルース色の強い作品。
４曲目 For A Lifetime
　美しいバラード。ギターは多彩で、今までのBanksには無かったような奏法も出てくる。時にHoweを意識しているんではないかと思うような部分も。
５曲目 Hear My Voice On The Radio
　親しみやすいバラード。流れるようなギターとカリカリとしたオルガンがたまらない。作曲はすべてBanksが行っているのですが、うまく言えませんけど実にポップなこのメロディはYESやFLASHでは到底やらなかったようなスタイルで、Banksの新機軸というところでしょうか。
６曲目 Shooting Star
　４部構成の組曲。軽めのシンフォで、ヴォーカルパートとインストパートに分かれています。インストはテクニカルな小技を随所に聞かせてますが、基本的にはメロディを聴かせることに主眼が置かれています。ポップでメロディックなヴォーカルパートの比重が大きいので、そこが好みの分かれる所でしょうか。ギターのソロ部分があり、聴きもの。
７曲目 Sky At Night
　静かで哀愁のある曲調。メロディが耳に残りやすく、またBanks渾身の演奏が聴ける佳曲。特に4:30あたりからのドラマチックな展開が気に入ってます。変幻自在なギターが素晴らしく、Peter Banksの面目躍如という感じ。

　FLASHのデビュー盤、YESの２，３枚目が好きな人は気に入ってもらえるでしょう。YESでの活動しか知らない人は是非聴いてみてください。

ONE WAY RECORDS OW31433 ('74/'95)

Mark II

YESやFLASHの良さが戻ってきた佳作　ソウルフルなボーカルがいい

　オクラ音源の第二弾ということになるのだけど、何でか知らんがMark IIIの後にリリース。７７年にロスで録音されたとのこと。５曲収録。

１曲目 Still Out of Our Hands
　タイトルが笑わせるが（FLASHの３枚目のタイトル・・つまり「まだFLASHやってま〜す」ってことか）、たしかにまるっきりFLASH。１、２枚目のころの元気な演奏が聴ける。中間の長いギターソロはFLASHやYES在籍時の演奏そのまま。Banksのファンにはたまらんはず。

２曲目 Destiney
　明るめのミドルテンポ。まあ、どうってことないポップソングなんだけど、Sydney Foxxのソウルフルなボーカルがいい。ちょっとファンキーな曲調がＢ級アメリカ・ポップって感じ。この作風はちょっと意外。

３曲目 Sky At Night
　前後がギター弾き語り風、中間がYESのような展開。Steve Howeのようなアコースティック・ギターで始まり、そこへディレイのかかったFoxxの声がのってちょっと神秘的。中間部はまるっきりYES。これは海洋地形学だな。Chad Peeryという人の弾くベースがこれまたChris Squireのようで、いつJon Andersonが出てくるのかという気分になるぞ(笑)　こんな展開のなかでBanksはアコースティックギターを弾いているという面白い構成。Steve HoweのアルバムThe Steve Howe AlbumでClaire Hamillが歌ってた曲がありますがアレにも似てます。だいたい、BanksってHoweと似たところあるんだよな。曲全体を通して聴くとのRENAISSANCEのような印象です。なかなかの作品。

４曲目 Do What You Want
　冒頭と終盤はYour Is No Disgraceやんか。Foxxの特質に合わせたのか歌部分は２曲目同様のポップソング風。曲後半にインストが配置されているがここのBanksの演奏も力入ってる。

５曲目 Everything Changes
　ゆったりとした起伏の少ないのに１２分以上におよび長い演奏。ロングトーンのギターと伸びやかなFoxxの声が重なる・・地味で長い曲なんで捉えどころが少ない。だけど、よおく聴けば初期YESにありそうな曲。すなわち、Banksのギターソロはもちろん、ゆったりとした曲なのにリズム隊の手数が多いこと、ジャズ志向を感じさせることなど。

　特に１曲目は往年のPeter Banks／FLASH／初期YESを刻み付けたような演奏。ここで聞けるギターソロはあいも変わらずBanks節。しゃあないなあと苦笑しつつも聴き入ってます。ファンにとってはBanksまみれの、まさにお宝音源ですな。もちろん僕も大好きです。ついでにジャケットの写真の情けなさがいかにもお宝風。他に写真無かったんかい。
　ONE WAY RECORDSからリリースされましたがもう廃盤になってます。興味のある人は見つけたら即ゲット。一時はメガストアのような大型店に並んでたんですが、最近じゃ新品はワールドディスク以外では見当たりません。

ONE WAY OW32650 ('77/'96)

Mark III

さらにポップ化　プログレを払拭した歌ものアルバム

　Peter Banksオクラ音源第三弾。
　他のメンバーに主導権を譲って、３作目にて深遠なプログレへと足を踏み入れたFLASHは、惜しくもアメリカツアー中に空中分解してしまう。その後、BanksはFLASHの１、 ２作目の方向性に立ち返るために新たなメンバーを集めた。・・・そんなわけで、もと もとFLASH続編として編成されたEMPIREだが、３作目ではかなり音が変質している。前 作Mark IIで感じられたポップソング化がさらに進んでいて、びっくり。
　演奏部分の比重は下がり、Sydney Foxxのボーカルを前面に押し出した曲が並ぶ。も はやプログレらしさはほとんど感じられない。前作はRENAISSANCE似の曲やYESっぽさを 感じ取ることができたのに。ディスコ風やバラードまである。で、なぜか９分を超える インスト曲が最後に収録されています。Banksらしい手癖のギターなんだけど、どうに も盛り上がりに欠ける平坦なつくりで残念。
　２枚目Mark IIからプログレ要素をそぎ落としたような音になってます。もうFLASH再 編を目論んだBanksは居ません。Sydney Foxxの歌唱力を中心に据えたパワフルなポップ ／ロックへと変貌しています。
　彼の変遷を知る上で面白いアルバムですが、YESファン、FLASHファンとしては楽曲の 魅力はイマイチですね。３枚揃ったEMPIREですがMark Iから順に聴くのが良さそうです。

ONE WAY OW32179 ('7?/'95)