病気から復帰したものの、帰るべきバンドに切り捨てられてしまったJon Anderson。心機一転、旺盛なソロ活動を再開した彼がその一環として盟友Rick Wakemanとツアーを断続的に行っています。このツアーではオリジナル曲も多く披露されているらしいのですが、そのライブでしか聞けなかった楽曲をスタジオ録音したものです。これはツアーの会場だけで限定販売されていたものですが、その後、プレスされた一部が専門店に流通、さらに関連サイトやeMusicやiTuneでもダウンロード購入が可能になりました。プロダクションとしては自主録音に近いものです。二人で作ったオリジナル曲をとりあえず録音しておくよという感じ。質や作りこみという観点で言えば、工業製品としてのクオリティにまで至らず「出来のいいリハーサル」と言ったほうがいいかもしれません。声も少し元気が無く不安はあるのですが、それでも旋律の美しさや"生命"をテーマにかつてのAndersonの世界観は確実に戻ってきています。ここ数年の彼の低迷を払拭してくれそうな"気配"を確かに感じます。
基本、Wakemanのピアノとシンセ、そしてボーカルというシンプルな構成です。この構成こそ神々しいYES、そしてあのABWHの最小単位と言えるかな。そう、音的にはYESよりもABWHに近いです。実質あれはAndersonのソロに元メンバーが参加という音でしたからね。今回もコラボ作品とは言えJon Andersonが主役です。まるで、Wakemanから歩み寄りAndersonを助けるためにやっているように思えます。彼のソロ作で言えば家族愛と生命を高らかに歌い上げたハートウォームな傑作Song Of Sevenに非常に近いです。
何といっても４曲目Living Tree (Part 2)です。これは旋律、曲の構成、生命賛歌の美しい歌詞・・・・二人の個性が存分に発揮された名曲です。いや、今は名曲の雛形と言っておきましょう。まだまだ発展させる余地があるし、煮詰めていけばさらに素晴らしい曲になるはずです。
３曲目House of FreedomはABWHをシンプルにしたようなバラード、希望にあふれる９曲目Just One Manは老境に至ってなお新たなスタートを感じさせます。２曲目Morning Starは大作の一部分という印象ですし、やりようによってはオオバケしそうな気もします。
他の曲もこの二人に発展させてもらって素晴らしい楽曲に成長できるはずです。タイトルの「生きている木」のとおりに。この高揚感こそイエスの真骨頂だったものです。そして歌詞は、Andersonらしい”生命の賛歌”のオンパレード。時に気恥ずかしく苦笑いしつつも歌詞を追っていくと、病を残り越えて戻ってきた彼の言葉に今までにないリアリティを感じるのですよ。歌の世界観が今の彼の境遇と重なり、まるで「再生への物語」に感じられたのは私だけでしょうか。
思えばWakemanも心臓病でダウンしたことがあるわけで。その二人がバンドを離れて再び結びつくことにも何がしかの因縁を感じます。多面的バンドYESが持っていた、かつての重要な面であった宗教的な高揚感はもうここにしかないのでしょう。偉大であったYESを彼ら二人が受け継いでいると言えます。余分なものを捨て去り、YESの要素をさらに純化させていく二人の今後の活動に期待しています。